美少女は空想上の生き物だ。実際の人間に自分のイメージと最も好む属性を足し美少女に作り変えているにしか過ぎない。

あーSさん会いたい。

ずっと神聖を抱き続けているその感情をそろそろ絶望に変えて欲しい。
もし絶望できなければどうしてしまおう?という恐ろしさは
イコール、まだ可愛らしい、それこそ「可憐」の侭いて欲しい、
否居るはずだ、という希望的観測と押し付けがましい望みでしかない。
私が求めるのは
「清楚で、儚げで、肌は磁器の様に白く、頬は桜色で、唇は薄い皮のまま
血の色が見える紅色、髪の毛はさらさらとした黒色で、瞳は濡れた様な透明度と
漂白された白目を保っている」Sさんな訳で、そこには
現代のハイティーンの影は無く寧ろ袴が似合う様な静々とした女の子という
時代錯誤な美しさを持った彼女しか「要らない」という我侭しか無い。
私といえば好き勝手に煙草を吸い酒を飲み夜更かしし化粧も濃く、
肌を荒らす不規則な生活と害毒を積極的に取り入れることしかしない。
だが彼女に私は何と言ったろう?
化粧するなと言った。
化学薬品塗れの粉で彼女の白い肌が塗り固められるのが我慢ならなかった。
髪を染めるなと言った。
彼女の美しい黒髪が薬品によって色を変えられ痛むのが許せなかった。
彼女がアルバイト先の先輩らにつれられ酒を飲んだと聞いた時は
世界がひっくり返ったかそれとも私がひっくり返ったか解らないほど動揺した。
実際にはどちらもひっくり返りはしていなかった。目が回っただけだ。
それら全ては自身であれば勝手気侭に取り入れているもので、
傍から見れば、とてもお前にそんな事を言う権利は無いぞ、
と諌めたくなるものだったが、私はとても正しい事を言っていた。
神も恐れぬ正論を言っていた。
彼女を一番愛しく思っていたのは多分私だったろうし
彼女の美少女然とした振る舞いに逸早く気付いたのも私だったろう。
私はとても正しい事を言い、また言う権利もあった訳だ。
だがそれは彼女にとって迷惑千万なことでしかなく強制される意味も解らず
「うるせぇなこの野郎」と罵倒する気持ちくらいしか起こらぬ私の我侭だった。
その我侭は否定されることも無く肯定されることも無く
ただ彼女の微笑によって保留になった侭だ。


畜生!
一層の事ぶっ壊してくれれば好い。
跡形も無くその幻想を台無しにされてしまえば好い。
それを絶望と言うのだ。
いや違う。もっと恐ろしい事は存在する。
Sさんが現代にすっかり順応した姿になっているにも関わらず
それを「美しい」と認めてしまうこと、彼女によって私の美意識が崩れ去ること。
彼女一人によって世界中の人間を見る目を改めねばならなくなってしまうこと!
恐ろしい。
だが同時にとてもスバラシイ事であるかのような期待と興奮が競り上がってくる。


結局、どの道「現在のSさん」にお目に掛かれなければどう転んだって
私はSさんに対する妄言を止める事は出来ず、
Sさんに対する幻想と妄念を払拭する事は出来ず、
どんな暗い杞憂も忽ち素敵な可能性に豹変してしまう。
一番頼りになる筈の自分でさえ信じる事は出来ない侭なのだ。


あーSさんに会いたい。